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2026.03.31
2026年3月31日
澳门网上博彩_澳门现金网-在线官网スポーツとジェンダー平等国際研究センター(SGE)は、国際オリンピック委員会(IOC)が2026年3月26日に発表した、「オリンピック競技における女性カテゴリーの保護並びに国際競技連盟及びスポーツ統括団体への指導的考慮事項に関するポリシー(“IOC Policy on the Protection of the Female (Women?s) Category in Olympic Sport and Guiding Considerations for International Federations and Sports Governing Bodies”)*1」で示した、女性カテゴリーへの参加資格を生物学的性およびSRY遺伝子検査によって判断する新方針に対し、強い懸念を表明し、即時の撤回を求めます。
第一に、生物学的性は、SRY遺伝子のみならず、染色体、性腺、ホルモン、そして表現型(身体的特徴)を含む複雑な相互作用によって成り立つものであり、単一の遺伝学的指標によって一義的に捉えられるものではありません。にもかかわらず、IOCは、女性カテゴリー参加資格の第一次基準としてSRY遺伝子を採用しています。しかし、SRY遺伝子の有無が競技上の優位性を競技横断的に示すことを裏付ける、公開された独立の査読付き研究は示されておらず、IOC自身もその十分な科学的根拠を明らかにしていません。こうした点に照らせば、今回の方針は、包摂をどのように実現するかではなく、誰を女性カテゴリーから排除するかを先に定める発想を出発点としていると疑わざるを得ません。
第二に、女性カテゴリーで競技するために、最もセンシティブな個人情報の一つである遺伝情報の提出を求めること自体が重大な問題です。提出しなければ女性カテゴリーで競技できない以上、その同意は形式的に存在したとしても、実質的には強制された同意とならざるを得ず、国際人権法および遺伝情報保護に関する法規範に照らして重大な適法性の疑義を生じさせます。実際、法律専門家の声明では、排除の脅威の下で求められる同意は自由で十分な情報に基づく同意とはいえず、遺伝データの処理は各国のデータ保護法や関連法規に抵触しうると指摘しています*2。さらに、遺伝子検査は単なる入口の手続きにとどまらず、陽性と判断された場合には追加評価やさらなる身体的精査につながる可能性を伴います。このことは、プライバシー、身体的自律性、人格権、データ保護の観点から深刻な懸念を生じさせます。これは、女性のスポーツへのアクセスを保障する制度ではなく、遺伝情報の提出を通じて女性カテゴリーの境界を管理し、身体を選別する制度です。
第三に、トランスジェンダー女性やDSD(性分化疾患)を有するアスリートが、シスジェンダー女性に対して、排除を正当化するほどの競技上の優位性を有しているという決定的な根拠はいまだに示されていません*3 *4。競技における優位性は競技特性や種目によって異なり、その影響の現れ方も一様ではありません。したがって、その複雑な差異を単一の遺伝学的指標によって競技横断的に判断することはできません。本来必要なのは、競技別?種目別の厳密な検証と、透明性のある科学的立証です。それにもかかわらず、IOCはケースごとの慎重な検討よりも、全競技を一律に処理する制度的単純化を優先しているように見えます。これは、複雑な身体と競技の現実を管理しやすい基準へと還元し、スポーツにおける不平等の複雑な現実に向き合うのではなく、身体の差異を管理可能な境界へと単純化して排除を制度化する発想であり、学術的にも、またスポーツ政策のあり方としても看過できません。
第四に、本方針の影響は、オリンピックに出場する一部の成人選手にとどまりません。地域大会、国内大会、ユースを対象とした大会は国際大会への選抜過程と連続しており、同様の基準が事実上、より早い段階に前倒しで導入されることは十分に予想されます。とりわけ未成年の選手にとっては、自らの身体のプライバシー、遺伝情報の意味、将来的な二次利用や情報漏えいのリスク、スティグマ化の可能性を十分に理解し、自由に判断できる環境が整っているとは言い難い状況です。教育機関として私たちが重大視するのは、この方針が若年層に対して「女性であることの証明」を迫る文化を強化しうる点です。スポーツの場は、本来、成長と学び、尊厳と参加を保障する場であるべきであり、監視と疑念の空間であってはなりません。
第五に、今回の方針は、その形成過程においても、透明性と説明責任を十分に果たしていません。IOCは科学的レビューや関係者との協議を経たとしているものの、どのような研究が採用され、どのような基準で退けられ、影響を受ける当事者がどのように関与したのかは、十分に公開されていません。国連人権理事会特別手続の共同声明も、女性カテゴリーの参加資格をめぐる意思決定は、透明で、参加型で、包摂的でなければならないと明確に指摘しています*5。実際、同声明は、専門家グループや諮問体制の構成、権限、作業方法が不透明であることに懸念を示しています。学術的にも人権的にも争点の大きい問題であるからこそ、求められるのは密室的な制度設計ではなく、独立性、透明性、当事者参加を備えた検討プロセスです。
第六に、この方針は、特定の少数者だけではなく、女性カテゴリー全体の競技環境に広範な悪影響を及ぼすおそれがあります。女性カテゴリーへの参加資格を遺伝情報によって管理することは、すべての女性と女児を、つねに疑われうる存在へと位置づける危険をはらみます。とりわけ、外見や身体的特徴を理由に、規範的な「女性らしさ」から外れていると見なされやすい選手、医療?法的支援にアクセスしにくい立場に置かれた選手、そしてグローバル?サウスの女性や女児に対して、その影響は不均衡に及ぶ可能性が高いと考えられます。実際、近年の参加資格規定は、十分な証拠のないまま、外見を手がかりにグローバル?サウス出身の有色人種の女性を標的としてきたと指摘されています*6。さらに、資源や保護が限られた国?地域では、独立した法的助言や医療的支援へのアクセスが乏しく、高額な検査費用、情報管理の脆弱さ、スティグマ化やアウティングの危険、さらには保護水準の低い法域での検査実施に追い込まれる可能性も高まります。こうした条件のもとでは、同じ規則であっても、グローバル?サウスの女性や女児に、より深刻な負担と暴力を集中させることになります。こうした構造的影響を見落としてはなりません。
私たちは、女性のスポーツへの平等な参画に必要なのは、身体の監視と選別ではなく、安全で尊厳ある参加環境、公正な資源配分、差別や暴力の防止、そしてあらゆる女性と女児が安心してスポーツにアクセスできる条件整備であると考えます。スポーツ構造に内在する不平等に向き合うことなく、遺伝子検査によって境界を管理することは、問題の解決ではなく、むしろ新たな排除を制度化することです。
近代スポーツは、長らく男性を中心に形成されてきた構造のもとで、女性たちの平等な参画をめぐる不断の闘いを通じて、少しずつそのあり方を変化させてきました。今日のスポーツにおけるジェンダー平等もまた、そうした歴史的な実践と批判の積み重ねの上に成り立っています。だからこそ、いま求められているのは、包摂性の進化を止めることではなく、より多様な身体をもつ人びとにとって、公平で安全で平等なカテゴリーのあり方とは何か、またジェンダーやセクシュアリティによって排除されないスポーツ構造とはどのようなものかを、開かれた議論のもとで問い続けることです。
澳门网上博彩_澳门现金网-在线官网スポーツとジェンダー平等国際研究センター(SGE)は、女性のスポーツ参加における公平性と安全性を軽視するものではありません。むしろ、それらを真に守るためには、科学的根拠の透明性、競技特性に応じた慎重な検討、身体的自律性とプライバシーの尊重、実効的救済へのアクセス、そして国際人権基準に基づく包摂的な制度設計が不可欠であると考えます。教育?研究機関として私たちは、スポーツにおけるジェンダー平等とは、特定の身体を排除することによってではなく、権利保障と構造変革を通じて実現されるべきものであることを強調します。
私たちはIOCおよび各国際競技連盟に対し、SRY遺伝子検査を中心とする女性カテゴリー参加資格における方針の再考を求めるとともに、当事者、研究者、医療?法?人権の専門家を含む、透明で独立した検討プロセスの構築を求めます。女性スポーツの未来は、排除を出発点とするのではなく、尊厳、非差別、公平性、そして包摂を同時に実現する方策の上に築かれるべきです。
私たちは今後も、アスリート、国内の競技団体に関わる関係者、そしてメディアの皆さんとともに学びを深めながら、スポーツにおけるジェンダー平等と包摂のあり方を問い続けていきます。そして、スポーツの名のもとに不平等や排除が制度化されるときには、それを看過することなく、批判的に向き合っていきます。
澳门网上博彩_澳门现金网-在线官网スポーツとジェンダー平等国際研究センター
センター長
山本 敦久 (社会イノベーション学部教授)
副センター長
野口 亜弥(文芸学部専任講師)
特別客員研究員
稲葉 佳奈子(成蹊大学文学部 准教授)
岡田 桂(立命館大学産業社会学部 教授)
佐藤 貴弘(筑波大学体育系 教授)
清水 諭(筑波大学体育系 教授)
田中 東子(東京大学大学院情報学環 教授)
山口 理恵子(城西大学経営学部 教授)
※2026年3月13日に開催したSGEシンポジウム2026において、第2部「遺伝子検査と境界線のポリティクス」と題し、本件に関するセッションを開催しました。
アーカイブ動画:https://www.youtube.com/watch?v=eZSZMKV3zrw
参照文献
1)International Olympic Committee (2026) “IOC Policy on the Protection of the Female (Women’s) Category in Olympic Sport and Guiding Considerations for International Federations and Sports Governing Bodies”. https://stillmed.olympics.com/media/Documents/International-Olympic-Committee/EB/policy/policy-on-the-protection-of-the-female-category-english.pdf.
2)International Commission of Jurists(2026)”Joint Statement from Legal Experts on Genetic Sex Testing in Sport”. https://www.icj.org/wp-content/uploads/2026/03/Joint-Statement-from-Legal-Experts-on-Genetic-Sex-Testing-in-Sport.pdf.
3) Jones, B.A., Arcelus, J., Bouman, W.P. et al. (2017) “Sport and Transgender People: A Systematic Review of the Literature Relating to Sport Participation and Competitive Sport Policies”. Sports Med 47, 701–716.
4)Canadian Centre For Ethics In Sport Cces, Research Hub For Gender Equity In Sport E-Alliance, Félix Pavlenko. (2022). Transgender Women Athletes and Elite Sport: A Scientific Review. The Canadian Centre for Ethics in Sport (CCES). https://www.cces.ca/transgender-women-athletes-and-elite-sport-scientificreview.
5)United Nations Human Rights Council (2026) “Joint Statement on Fairness, Inclusion and Non-Discrimination in Sport”. https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/issues/discrimination/260225-joint-statement-on-fairness-inclusion-and-non-discrimination-in-sport.pdf
6)Sport & Rights Alliance (SRA), ILGA World, Humans of Sport (2026). “International Olympic Committee has no right to become ‘gender police’ of the world”. https://sportandrightsalliance.org/olympics-sex-testing-harms-all-women-and-girls/