社会イノベーション研究科
イノベーションに関して、自然科学系の技術を中心とした教育研究に留めることなく、社会科学の視点からも追求し、高度な教育研究の対象とすることが必要性であることは、今日、論を俟ちません。そこで、社会イノベーション研究科では、イノベーションを関心の中核に据えて、多角的?学問融合的に教育研究します。
そして、問題志向?問題解決型の学際的教育研究を社会科学領域で実施します。
社会イノベーション研究科では、技術革新、経営革新なども含めて、イノベーションを創造?生成する局面に着目する経済(政策)、経営(戦略)の領域での教育研究を中心に据えつつも、社会革新、生活革新などを生起するものとしても認識し、イノベーションが普及?影響する局面を心理、社会の領域でも教育研究します。そして、イノベーションが関わる問題について、学問融合的かつ横断的?学際的に解明することを図ります。
たとえば、イノベーションの国レベルでの課題およびその理論的側面は、経済(政策)領域で、イノベーションの企業レベルでの課題は、経営(戦略)領域で考察し、さらに、イノベーションが個人や生活者に与える影響という課題を心理領域で考察し、イノベーションがもたらす社会への変化という課題を、社会領域で考察するというわけです。
そして、経済(政策)、経営(戦略)、心理、社会の各領域は固有の専門的学問体系を有するものですが、それらを分離?独立させたまま教育研究するのではなく、関心の中核に据えているイノベーションが関わる課題について、多角的?学問融合的に解決することを意図しながら、問題志向?問題解決型の思考能力の涵養?育成を基礎に据えた教育体系を敷いています。
社会イノベーション研究科では、「人材育成の目的」としても記しているように、社会に持続した発展をもたらす人間の創造活動であるイノベーションの学問横断的な教育研究を通して、博士課程前期においては、博士課程後期への進学を希望する学生に対して必要な専門知識?能力を育成するほか、高度職業人として活躍するための高度な専門的知識と幅広い教養を具えた人材を養成することを、また、博士課程後期においては、高度な研究能力と豊かな創造性を涵養し、自立した研究者として学問の発展に貢献できる人材を養成することを、それぞれめざしています。
そこで、社会イノベーション研究科では、社会イノベーション学部で学んだ知見をより高度に発展?展開させることを希望する学生や、他学部や他大学卒業生であっても、イノベーションについて学際的に学んで研究していきたいといった者を受け入れています。また、イノベーションに関わる分野に従事している実務経験者が、その専門的能力をさらに活かしたり、知見等を学術的成果として取り纏めていくことができるように、社会人入試等の入試区分も設けることで広く受け入れています。
このようにして社会イノベーション研究科において学んだ課程修了者は、修士や博士の学位を得て、ここでの教育研究を通じて獲得したことを活かして、各界において活躍しています。
社会イノベーション研究科の人材育成の目的は、こちらをご確認ください。
今から約120年前にM.ウェーバーは資本主義の行き着く果てに「最後の人間」が現れることに警告を発しました。「最後の人間」とは元々F.ニーチェが「超人」の対概念として述べたもので、小市民的な安逸のみを求め、変化を求めない人びとのことです。ウェーバーはここに新たな意味を盛り込みました。資本主義的な競争に耽る現代人は、労働がかつて持っていた倫理的かつ禁欲的な意味合いをすっかり忘却したため、資本の蓄積が自己目的化してしまっている、と考えました。その荒涼とした世界に君臨する「精神のない専門家、魂のない享楽的な人間」が「最後の人間」だというのです。
倫理なき欲望の解放が現代社会の諸問題の多くをもたらしたと考えるなら、ウェーバーの警告の的確性に慄然とせざるを得ません。大学はかつて「象牙の塔」と呼ばれ、社会から隔絶した存在と見なされた時代もありました。今でも文系の学問はしばしばその有用性を問われます。しかし社会イノベーション研究科ではイノベーションへの理解を通じて、皆さんと一緒によりよい社会の創造に貢献したいと考えています。