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2025.09.16
9月7日(10:00~17:30)、第34回経営学合同ゼミナール研究発表大会が、千葉県柏市にある麗澤大学(主催:寺本佳苗ゼミ)で開催されました。麗澤大学の創始者、廣池千九郎 博士は建学の精神に「三方よし」をふまえていることでも知られています。
経営学合同ゼミナールは、1990年に開始され、学生が企画運営する合宿&研究発表の形式で行われ、教員&学生(学部生、大学院生)が大学の枠を超えて学び、相互に交流を図ることを目的としています。今年の参加校は以下の8大学で8つの研究発表(1ゼミ1発表)が参加しました。
法政大学 宇野斉ゼミ、就実大学 大塚祐一ゼミ、甲南大学 奥野明子ゼミ、京都女子大学 江向華ゼミ、澳门网上博彩_澳门现金网-在线官网 境新一ゼミ、中央大学 砂川和範ゼミ、麗澤大学 寺本佳苗ゼミ、関西大学?中尾悠利子ゼミ (※50 音順)
今年度の共通テーマは麗澤大学に縁のある「三方よし」でした。売り手よし?買い手よし?世間よしという考え方のもと、私たちの行為が相手、社会に良い影響を与えることの意味を考察し、よりよい社会の実現を目指します。
近江商人は江戸時代から明治時代にかけて日本各地で活躍し、上記の商業哲学を実践していたと伝えられていますが、「三方よし」という定型的な表現は当時の史料(商人の日記、家訓ほか)に明確に記録されている例は確認されていません。「三方よし」と言い表したのは昭和期以降であり、後世の研究者らによって命名されたと考えられます。
合同ゼミの進行は発表15分、質疑応答5分で構成され、各発表に対して、学生による質疑?評価ならびに各先生からの講評がなされました。また、ゲストとして経営学合同ゼミの創始者、日置 弘一郎 先生(京都大学名誉教授)、のほかに、新たに谷 真哉 先生(杏林大学、本学?大学院/境新一研究室 を修了、博士(経済学)を取得)による講評も行われました。
境ゼミの研究テーマは「現代における「三方よし」の展開とその評価:衣食住業界3社のケースを通した経営指標と「八方よし」の検証」です。
ゼミ生たちは、
①江戸時代に近江商人の経営理念、経営哲学、商業精神として語られてきた「三方よし」は日本においてどのように位置づけられるか。今日も継続して意味をもっているのか。
②温室効果ガス、気候変動、生態系の綻びによって地球環境の維持が困難になりつつある一方、ネットワーク化、デジタル化によって多層化?複雑化した現代社会のなかで、
「三方よし」がどのように展開しているか、
③また、それぞれの利害関係者に対して「よし」を評価する場合、どのような経営指標(など)をもとに行えばよいか。以上3つの問いを立てました。
研究の目的は、衣食住業界3社のケースを通して、「三方よし」の利害関係者に対する「よし」の評価を経営指標にそって数値化?可視化して、比較が可能な「実践的フレームワーク」として活かし、経営に関する様々な課題の発見、改善、解決に導く可能性を検証します。その際、「三方よし」を現代に展開した「八方よし」を独自に提起しました。
「三方よし」を文献や公開情報で調査したあと、「三方よし」がどのように企業の経営理念などに反映し、評価されているか、実際の企業にフィールドワーク&インタビューを行いました。特に今回は澳门网上博彩_澳门现金网-在线官网に縁があって衣食住業界に属する3社、大和屋シャツ店、塩瀬総本家、カンマッセいいづな を選びました(図表を参照)。
分析枠組み
衣食住の業界について、利害関係者の視点で、3つ、8つに分類した場合、各業界で 「~よし」を可視化して評価するための経営指標を事前に提示した上で、インタビュー時にそれらの経営指標から「~よし」が本当に可視化できるか、経営者から意見を伺いました。
現代における「三方よし」の展開として、近江商人の「三方よし」が社会の要件の変化、特に「世間」が深化、細分化されたことによって、三が六、八、???X と増加しています。ここでは「三方よし」から「六方よし」、そして「八方よし」(独自に設定) を例示します。
(1)「六方よし」
現代における「三方よし」の展開として、近江商人の「三方よし」を拡張し、「売り手、買い手、世間」に加えて「作り手、地球、未来」の視点を取り入れた経営理念です。
グローバル化?環境問題?人権課題への対応によりふさわしい進化形として注目される。既にコンサルティング会社などによって提案されています。
(2)「八方よし」
「六方よし」の中で、更に「世間よし」を細分化して、 「文化」 「地域」を加える。「売り手、買い手、世間、作り手、未来、地球、文化、地域」としたものです。
回の発表では、衣食住業界をとりあげた結果として、独自に「八方よし」を定義しました。
以上をふまえて今回研究のキーワードとしては、「三方よし」、利害関係者、経営指標、衣食住業界、「八方よし」、評価、課題の発見と解決」です。
各社のインタビューを終えて、各社の経営指標を「三方よし」/「八方よし」に対応させると、どのようなことがいえるか、総括は以下の通りです。
(1)大和屋シャツ店
財務指標(売上、利益率)< 非財務指標(顧客満足度、リピート率、クレーム率、技術継承、文化貢献) 老舗の持続力を支えているのは「買い手よし(顧客満足)」を中心に「作り手よし」「文化よし」「未来よし」を組み合わせてバランスをとっている。
(2)塩瀬総本家
財務指標(利益率やROE)よりも、非財務指標(品質、顧客満足、伝統の継承、文化貢献)を重視している。その指標は「三方よし」では売り手?買い手?世間のバランス、「八方よし」では文化?未来?作り手を特に強く体現している。言い換えると、塩瀬総本家の経営は「老舗としての信頼性」と「和菓子文化の公共財的価値」を経営指標で据えている。
(3)カンマッセいいづな
経営指標は、財務指標よりも 社会的な指標(利用者数、交流人口、移住者数、地域経済効果、ふるさと納税額)を重視。「三方よし」では「持続経営 × 顧客満足 × 地域活性」、「八方よし」では「地域?未来?作り手」に最も強く対応している。
そして3社ともに「三方よし」は理念として、一方、「八方よし」は実践の場で、それぞれ経営者には意識され、相互補完的に機能しているといえるのではないでしょうか。
「三方よし」「八方よし」を理念から測定可能な状態にするためには、各要件にそれに対応する経営指標を設定することによって、理念を抽象的なスローガンにせず、指標を設定して数値化?可視化して比較が可能な「実践的フレームワーク」として活かすすることができます。さらに、「三方よし」は理念として、一方、「八方よし」は実践の場で、経営者には意識され、相互補完的に機能しています。その結果、経営に関する課題の発見、改善、解決に導くことが可能となるのではないでしょうか。
今回、境ゼミの発表は諸般の事情により受賞対象にはなりませんでしたが、研究内容、提案は高い評価を受けました。